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Interview

Life With Art
Vol.05
Naoko Sasagawa

April 15, 2022

最先端のアートに触れ、
常に価値観を刷新していくことで
人生はより一層豊かになる

「アートのある日々」Dear Artが掲げるこの言葉を当たり前のものとして生きる各界の第一線で活躍する人々に、コレクションや生活を覗かせていただきながらお話を伺う本シリーズ。

第五回目となる今回は、ロングセラーのナチュラル&オーガニックヘアケアブランド『uruotte』の生みの親、株式会社クィーンの代表取締役 笹川直子さんにお話を伺いました。創造性ゆたかなものづくりを通して、あたらしい暮らしの価値を提案することをテーマに掲げる同社は、オフィスの隣にコミュニティサロン”Grenier”を併設しており、そこには笹川さんがコレクションされているアート作品がいくつか飾られていました。思わず、「これは何ですか?」と会話が弾んでしまうような、丁寧に選ばれた作品に囲まれた空間に心躍る中、初めは一般企業の会社員として働いていたという笹川さんがアートをコレクションすることになったきっかけや、アートを購入する上で大事にしていること、変化の著しい社会の中でアートが与えてくれるもの、などについて語っていただきました。

コミュニティサロン”Grenier”内は、明るい日差しが差し込む開放的な空間。
開催した福本健一郎氏の作品展「かけらとこけら」展示風景 2019年3月
伊藤彩氏の作品展「Rapid Rabbit hole」展示風景 2019年7月
伊藤さんの作品はDear Artでもご紹介しています

清水の舞台から飛び降りる思いで購入した、
初めてのアートの思い出

――今ではご自宅はもちろん、オフィスでもアートを楽しまれ、自分のみでなく周りの人々にもアートのある生活を届けていらっしゃる笹川さんですが、初めてアートを購入したきっかけは何だったのでしょうか。

「母の影響で、元々小さい頃からアート的なものに囲まれた生活をしていました。山から拾ってきた枝のようなものが時計にかかっていたり、どこかから買ってきた巨大な茶壷がさりげなく飾られていたり……、高くて立派なものではないけれど、生活の中に自然にアートが溶け込んでいた気がします。今思うと、こうしたアートのある環境にいたことが、今の活動のベースになっているかもしれません。
実際にアートを自分で買うきっかけになったのは、20歳の時に母の友人がやっていた鎌倉画廊さんに伺った事です。当時私は普通のO Lだったのですが、画廊に来ている人達はいつも働いている場所には居ないような、アーティストさんやクリエイターが多く、そういった方々と初めてお話した時に、考え方や物事の捉え方がとても面白いなと思ったんです。作品はもちろん、その作り手たちの人となりにも強く惹かれました。最初の作品もそこで購入したのですが、分割払いでいいよと言ってくださいまして。分割といってもクレジットカードローンではなくて、ボーナスが出るたび直接ギャラリーに現金を納めに行っていたのですが(笑)」

――確かに、購入を迷っている作品でも、アーティストさんにお会いしたり、インタビューやSNSでその人となりを知ったとたん、素敵、絶対にこの人の作品が欲しい!なんて思ってしまうこと、多々ありますよね。その時はどのような作品を購入したのでしょうか?

「クロード・ヴィアラさんというアーティストの、高さ2m50cm程あるかなり大きい作品を購入しました。テントやベットカバー、シーツなどキャンバスではない布に豆のようなモチーフを描いている抽象画の作家さんで、私のすごく好きな作風や色調でした。当時、見た瞬間から一目で気に入ってしまって。

自分には高価でサイズも大きいけれどどうしても欲しくて、清水の舞台から飛び降りるつもりで、つい買ってしまいました。作品自体は畳んでしまっておけると言われたので、いつかこの作品を飾れる家に住みたいなあ、なんて想像して楽しんでいました。当時はバブルだったのですが2年がかりで払い、そこから10年くらいはギャラリー巡りをしたり、細々とコレクションをしていましたが、仕事と子育てに追われてその後10年は時間があいてしまったんです。2008年ごろから子育てがひと段落して、またアートへの熱が再燃しました。」

アートはいつも、新しいモノの見方や
考え方を教えてくれる

――10年の時が経ってもまたアートを手にしたいと思えるというのは素敵ですね。
10年も経つと、アートシーンも大きく変化していたのでしょうか?

「そうですね。2000年以降は村上隆さんなど海外で活躍する次世代の作家さんが目立ってきた頃で、80~90年代とは様変わりしていました。「ああ、時代が変わったんだ」と実感しました。海外まで足を伸ばしてみると、富裕層のコレクターがたくさんいらっしゃったり、アートフェアに行っても桁違いに高額な作品に圧倒されたりして、市場の大きさに驚きました。日本ではまだまだアートを購入する方は少ないですし、アーティストは作家活動だけで生活するのは難しい状況が続いていると聞きます。」

「ただ、経済的には報われずとも制作を続けているアーティストの生き方って稀有だな、と尊敬しているし、お金で測れない価値を大切に生きている彼らに、人として学ぶところが多いと感じます。実際に会って話してみるとそれがよくわかるので、アーティストと皆さんをつなぐコミュニケーションの場をもてないか?という気持ちもあり、こちらのサロンをつくりました。2019年の「かけらとこけら」展では、福本くんがすっごくステキな陶芸のカップをたくさんつくってきてくれて。そのカップでスペシャルなコーヒーを飲みながら、ご本人の説明を聞きつつじっくり彫刻作品を見る、という贅沢で豊かなひとときを過ごしました。いまも思い出に残っていますね。」

――笹川さんも、サスティナブルなモノづくりをされていらっしゃいますが、アーティストさん達の考え方と似た部分を感じます。これまで笹川さんの中でビジネスとアートはどのように関わってきたのでしょうか?

わが社は、自然派ヘアケア製品をつくっていますが、1970年代に母親が公害問題に関心を持って自然食で子育てをしていたのがそもそものきっかけです。農薬や添加物、白砂糖を避けて、シャンプーなどの日用品も成分を確認して購入する、という徹底ぶりでした。私はそこまでストイックはないのですが、社会の課題に対して自分なりに調べて考えてみるとか、解決策として自分が納得のいく商品をつくってみる。とか、そういったマインドはアーティストとの共通点なのかもしれません。利益優先はなく、自然と共生でき、自分が心からほしいものを真摯に作って世に問う。美意識をもったブランドにしたい、と思っています。

――どんな作品をコレクションされているのか、詳しく教えていただけますか?

「田中麻記子さんの作品は、このスペースに何点か飾らせて頂いています。たとえばこちらの作品は3.11の後に制作された《たましいのじゅんび》という作品です。あの大変な時期に彼女が受けた啓示が”うみだす"ということで、これから生まれてくる魂たちの姿なんだそうです。人はみな生まれながらに得意なものがあって、サッカーをしている人だったり踊っている人もいる。生きることへの喜びが溢れているようです。生命讃歌なんですね。そんなイメージがおりてきて描いたとおっしゃられていて、ショックな出来事も受け止めつつ、それでも世界を肯定的にとらえようという彼女のメッセージが素敵だな、と思いました。」

3.11に影響を受けて製作された作品。画面いっぱいに生命賛歌が満ち溢れているようです。
《たましいのじゅんび/ La preparation de l’ame》2011, oil on wood panel/Makiko Tanaka田中麻記子
楽園のような空間の中で行われている生き物たちのやりとりは、ついつい近づいて見たくなってしまう。《ジェンドラ湖畔》2011, oil on wood panel /Makiko Tanaka 田中麻記子

「こちらはKOKI ARTSさんで去年買ったエヴァン・ネスビット(Evan Nesbit) 氏の作品です。Dear ArtさんでもKOKI ARTSさんの作品はお取り扱いされていますよね。私が昔購入した作品と技法が似ていて興味をもったのと、この作品は色も綺麗で可愛いなあと思ってつい衝動買いしてしまいました。」

最近購入したコレクションの一つ。盛り上がったテクスチャと鮮やかな色のコントラストは、見ているだけで心が弾むよう。《Tracking Grid II》2021, Acrylic, Ink, dye, and burlap, image size: 27.9×22.9cm /Evan Nesbit エヴァン・ネスビット
ご自宅に飾られているコレクションをご紹介。壁に飾られたペインティングの目を引く赤と、異なる素材が組み合わさる立体作品は空間を一気に華やげる。
《裸婦》1975, oil on canvas / Shosuke Osawa大沢昌助
《あめつちのかけら#1,#2,#3》/Kenichiro Fukumoto福本健一郎

――笹川さんは直接ギャラリーに行かれることも多いと思いますが、Dear Artを実際ご覧になってどのような感想を持ちましたか?

「作品を見るときに年代で検索できるところがあって、新しい視点だなと思いました。取扱いギャラリーさんも知り合いのところが多くて、安心感がすごくあります。」

――コラムやインスタグラムで、テーマごとにアーティストさんや作品をキュレーションし、紹介もしていきますので、今何が欲しいか分からない方は是非参考になさってみてください。もちろん、お気軽に問い合わせしていただいても大丈夫です。

現代アートならではの愉しみ方

――笹川さんのコレクションは大体どのようなジャンルで構成されているのでしょうか?

「私はペインティングや写真、彫刻だけだけでなく、VR映像やバイオアートなど、あたらしいテクノロジーを活用したものも好奇心で購入します。現代アートは特に、今まで見たことない新しいアイディアや、おおっ、と思うような、思いもよらない発想に触れるのが楽しいですね。
例えば、ITTA YODAというアーティストユニットのVR作品は、アルゴリズムにより映像が永遠に自動生成され、一部がLEDに反映されるというかつてない視覚体験ができます。ハードディスクに入ったプログラムとケースに入ったLEDがセットになっていて、設営がすごく大変だから、実は買ったあと一度しか見ていないのですが……(笑)」

――設営が大変な映像作品を、それでも購入し手元に置くということは、やはり外で一回だけ鑑賞する場合とは異なる効果を感じているということでしょうか?

「そうですね。あたらしい表現、ビックリするような感動を忘れず、わがものにしたい、という感情で購入しているのでしょうか。アーティストは、まだ誰もやっていない、新しい表現やコンセプトを目指して制作していて、その点でやはり誰が一番にやったのかという部分には一つの価値があると思います。それを、リアルタイムで手に入れるという満足感はあります。何らかのsomething new、他と違う新しい考え方や技術、そういうポイントがあればあるほど面白いですね。」

時代の変容とともに変わるもの、変わらないものを見極めて、自分の価値観を常にアップデートしていきたい

――先ほど会話の中で、最近お茶を習い始め、古美術にも興味を持ったとおっしゃっていましたが、例えば古美術と現代アートという幅広い年代の作品を比べることで、何か新しい発見があったりするのでしょうか。

「最近、現代作品の価格が高くなって古いものと逆転現象が起きているように感じて、日本の古い美術にも触れてみようとお茶をはじめてみました。いろんな時代のものを見る、いろんな人の意見を聞くことで、自分の視野を広く持つことができ、勉強になるなと思っています。なにごとも表層的な部分でなく、もう少し深く考えてみたり、違う角度から見てみることで、だんだん自分に軸ができ、時代に左右されない、普遍的な価値が見えてくると思います。」

――最後に、笹川さんにとってアートとは何か教えてください。

「私にとってアートは、心の栄養です。作品と暮らすことで日常にメリハリがうまれます。さらに、アーティストと会話すると新たな視点で物事をみられるし、人生がすばらしく豊かになる、と本当に思いますね。」

DOMANI・明日展に展示された作品を購入。静物画に妖精がみえる楽しげな作品。
《still life》2017-2018, oil on canvas/Makiko Tanaka 田中麻記子

インタビュー&テキスト:上田祐里江

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Profile

1968年生まれ。1989年 山脇学園短大卒業、株式会社野村総合研究所に入社。OL一年生で初めて作品を購入。2000年 株式会社クィーン設立に参画。2005年 ヘアケアブランド“uruotte”を立ち上げる。2010年 同社 代表取締役に就任。絵画、写真、映像、メディアアート、VRとジャンルを問わずコレクションしている。