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Interview

Life With Art
Vol.01
Takayuki Moriya

September 11, 2020

「アートのある日々」……Dear Artが掲げるこの言葉を当たり前のものとして生きる各界の第一線で活躍する人々に、コレクションや生活を覗かせていただきながらお話を伺う本シリーズ。

第一回目となる今回は、国内外の映像クリエイターとともに様々なブランドのプロモーション映像やアーティストのミュージックビデオなどを手掛け、インスタレーション、VR、グラフィックなど、型にはまらない多様な映像作品を生み出し国際的に活躍する映像プロデューサー、守屋 貴行さんにお話を伺いました。

近年はクライアントワークだけでなく、自身の設立した株式会社NIONで制作したアートフィルム「KAMUY」をアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで発表したり、渋谷スクランブル交差点街頭ビジョンをジャックし話題となった世界的アーティスト ソフィ・カルの映像作品の放映を企画するなど、クリエイティブとアート業界を繋ぐ活動も積極的に行っており、これまで日本になかった映像ビジネスのパイオニアとして大きな注目を集める守屋さん。

「コレクターというほどのものではないですよ」と言いながら、今では家中にアートが溢れているご自宅にお伺いし、丁寧に集められた作品を拝見しながら、コレクションを始めたきっかけやアートと生きる楽しみ、おすすめのアーティストまで存分に語っていただきました。

ポスターや花を家に飾る気持ちよさ。
その延長に、アートがある。

――今では一流のアーティストとも仕事をされ、通も唸るような作品をたくさんお持ちの守屋さんですが、そもそもアートを集め始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

「初めは、親の影響もありました。美術館にたくさん連れて行かれて、学生の時からマティス の絵が好きだったんです。それで、ポスターを買って部屋に貼ったのが一番最初にアートを飾った体験です。ファッションも好きだったので、エディ・スリマン時代のDiorの写真集を購入し、自分で拡大コピーして壁に貼ったりしていました。高校生が、お気に入りのバンドのポスターを部屋に飾るのと同じですね。花を買って部屋に飾るのも好きなんですけど、好きなものに囲まれていると気持ちいい、そんなシンプルな快感が発端となっています。自分が好きだと思うもの、かっこいいと思うものに囲まれていたいんです。その延長に、僕の場合はアートがありました」

――まずはポスターやお花から、お気に入りのものと過ごす気持ちよさを体感するって素敵ですよね。アートをこれから買おうという人には、ぜひ真似して欲しいです。ちなみに、いわゆるユニーク作品を初めて買ったのは、いつごろ、どんな作品でしたか?

「確か大学生の頃ですね。オードリー・ヘップバーンを描いた作品だったかな。新進気鋭のアーティストを安く買える海外のウェブサイトがあって、2万円くらいで購入した記憶があります。アートって、意外と手頃に手に入るんだと思って驚き、そこからハードルが下がって徐々に購入し始めたと思います。ただ、ギャラリーに行って買うようになったのはここ2〜3年くらいで、それまでは本当にアートの文脈とかは考えずに、シンプルに好きという気持ちで集めていました。もちろん、昔からトップアーティストの作品が欲しいという思いはあったんですが、欲しい作品はやっぱり少し高額で、もっと勉強して本当に自分がいいと感じるものを選びたいと思っていたんです。
ギャラリーで買ったのは、大久保 紗也さんの作品が初めてだったかもしれません。それも、ここ2〜3年でギャラリーを巡るようになって、現代アートの世界と直に触れ合うことでそうなったというか。」

国内外での人気が高まり、入手困難になりつつある井田幸昌さんのPortraitシリーズ / © IDA Studio inc.
オタク文化をこよなく愛し、ストリートカルチャーとミックスして表現する作風が注目を集め、DIESELやSupremeなどの企業ともコラボしているJUN INAGAWAの作品 / ©JUN INAGAWA
廊下に飾られたEddie Martinezのドローイング作品もお気に入りの一つ
Eddie Martinez(ドローイング) / Copyright of Eddie MARTINEZ

――ポスターも、ユニーク作品も「好きなものに囲まれて過ごす」ことと話してくれましたが、ポスターとアートの違いはなんなのでしょうか?

「やはりアーティスト本人が気持ちを込めて作ったそのものと、それを大量印刷した商業的なものとでは大きく違うのかなと思っています。アートを買うことの本質って、この世にひとつしかない本物を持っている所有感や、身近において持つことで心が落ち着くとか、そういった部分はどうしても少なからずあると思うんですよね。それは、本物を手元に持つことでしか味わえない感覚だと思うんです。
昔から、花を買う人が好きで。人間の行為としてすごく自然で、しっくりくる感じがします。アートを買うというのも、この感覚と近いような気がしていて、それは、身近なものに喜びを見出すことができるという豊さなのかもしれないです。」

アルベール・カーンという銀行家が第二次世界大戦前の美しい世界を残すため、私財を投げ打ってカメラマンたちに最新鋭の機材を提供し、世界中で撮影されたという作品の一つ。その理念に共感した守屋さんはフランスまで赴き、財団と一緒に仕事がしたいと打診したこともあるとのこと / © Albert-Kahn
モスクワ生まれのサーニャ ・カンタロフスキーによる木版画作品も
Sanya Kantarovsky “Curtain”,2019
Woodblock print on washi paper
Image size : 40 × 29.5 cm, Paper size : 41 × 30.5 cm
Edition of 50
©Sanya Kantarovsky Courtesy of Taka Ishii Gallery

――その感覚はすごくわかります。特に今、自粛期間やその後も家にいることが増えて、改めて、暮らす場所や精神性への関心が高まってもいますよね。その流れの中で、アートへの関心も高まり、Dear Artでもはじめてアートを買うという方が多くご購入くださっています。守屋さんがたった数年で、国内外で注目されるような気鋭のアーティストたちの作品を集められたように、そういう方々が現れるといいなと思っています。まあ、にしても、アートギャラリーを巡るようになって約2年で世界的なアーティスト、ソフィ・カルの映像作品の放映をプロデュースするというのはちょっと想像しにくいですけれど(笑)。

「ソフィ・カルは、しかけた自分で言うのもなんですが、面白い試みでしたよね。きっかけは、知り合い経由でペロタンのメンバーとフランスに行った時、ちょうど彼女の展示を見たことです。元々作品は拝見していて好きだったこともあり、本人とお話したところ、東京で原美術館とGALLERY KOYANAGI、PERROTIN TOKYO合同の展覧会をやると聞きました。その際に映像作品も流したいという話があって、だったら映像の展示はギャラリーでやらずに、もっと多くの人に見てもらえる場所でやった方が絶対いいと思って、スポンサーも何も決まってなかったんですが、渋谷のスクランブル交差点の街頭ビジョンを抑えてしまったんです。もちろんメディアだったので、そこを使うには予算がかかるので、今自分が考えている意思や想いみたいなことを汲み取ってくれる人を考えた時に、ビズリーチの竹内真さんが浮かびました。企業ブランディングの一環で支援を依頼したのですが、真さんはそういった側面よりも、アートを愛する気持ちの面で合意してくれた形です。ヨーロッパは伝統的に芸術との距離が近く、アメリカも商業的な路線でアートを取り入れてきたけれど、日本はもの作りや文化を作り出してきた歴史は長いはずなのに、今はアートや洗練されたものに触れ合うことができる場所が非常に少ない。そこで、できるだけ多くの人がアート作品と対話をできる機会を、ビジネスと接続しながらつくっていきたいと思って、あのプロジェクトが実現しました。」

――スポンサーが決まってないのに、東京の象徴の一つとも言える街頭ビジョンを予約するって、どういうことですか(笑)! そこまでさせるアートって、守屋さんにとってどういうものなんでしょうか?

「本当のことを言うと、アートの本流は、社会に対するメッセージ性を持ったものだと思っています。自分のコレクションには政治的・宗教的なメッセージの強いものは少なくて、心が落ち着くものが中心となっていますが、アートの持つ力について考えた場合、実際には本流と言えるようなアートの方が好きだとも思っていて。でも、好きなものとコレクションするものを無理に合致させる必要はないんじゃないかと思っています。」

ソフィ・カル《La fantōme de Souris》のポスター
《La fantōme de Souris》 Sophie Calle
寝室には、杉本博司さんの写真作品も

始まりは、かっこいいものや美しいと思うものを
たくさん見て、触れて、楽しむこと。

――コレクションの中で、思い入れのある作品3点について教えてください。

「パリの版画工房Idem Parisで買ったJR.と、加藤泉さんのリトグラフは思い出深いですね。Idem Parisはピカソやシャガールなど、名だたるアーティストに愛された工房ですが、壁に名作の数々が無造作に貼られていたり、当時から動いている鋳鉄の印刷機があったりして、その世界観や職人たちの立ち振る舞いが本当に格好良くて。そんな場所で、森山大道さんや加藤泉さんの作品が刷られていると知り、驚いたんです。Idem ParisのPatrice Forestさんがとてもよくしてくれて、そこで一目惚れした2つの作品を購入しました。初めて海外でアートを買ったので、無理を言って飛行機に乗せるまでずっとついて行ったのも思い出深いです。」

Idem Parisで一目惚れしたJR.のリトグラフ
《Pablo Picasso, Self-portrait, in front of “Man leaning on a table” 》 2013, Paris / © JR.
同じくIdem Parisで購入した加藤泉のリトグラフ
《Untitled 15》2017, Lithograph, Korean paper, 168 x 128 cm
Courtesy of the artist
/ © 2017 Izumi Kato

「あとは、マリリン・ミンターの作品を2点持っているのですが、実は2枚一緒に買うかどうかすごく迷っていたんです。自分はいつも、どちらかといとそのアーティストの作風ではない作品を買うことが多くて。マリリン・ミンターの作品でいうと、一枚のガラスを通した作品は、まさに彼女の作風という感じですが、もう一点は、これもマリリン・ミンターなんだと思うような、いつもと違った雰囲気がある。本来は後者を1点買うところ、この時はどちらも選び難くて、信頼できる友達何人かに相談したら、満場一致で絶対買うべき!と返事が来て。結局両方買ってしまいました。」

アメリカを代表するフェミニズム・アーティスト、マリリン・ミンターの2作品。
左 : 《Plush #7》  2014, Digital print, 48.2 × 33 cm
右 : 《Plush #22》 2014, Digital print, 48.2 × 33 cm
©Marilyn Minter Courtesy of THE CLUB
加藤泉さんの作品は、ソフビ製のフィギュアも多数収集。「全部集めたいほど好き。このシリーズって、日本のコンテキストを踏まえていると思う。特撮ヒーローとか、アニメのフィギュアみたいなところに繋がっているよね。」と守屋さん / ©Izumi Kato

――キャリアの長い作家は作品数も多く、迷うこともありますよね。そこで決断できるだけの基準を、自分の中でも外でも、持っていると良さそうです。若手で注目している作家さんはいますか?

「川内理香子さんはずっと注目しているアーティストの一人です。何度も買おうとしていて、やっと先日買えました。あと今坂庸二朗くんは友人なのですが、作品も大好きですね」

――クリエイターとしても活動する守屋さんですが、ものづくりにおいてアートからは影響を受けていると思いますか?

「影響は受けているでしょうね。主には精神性において。アートは普遍的な物事を表していたりするので、表現に反映される部分もあると思います。ものづくりをしている人は、みんなアートが好きな部分はあるんじゃないでしょうか。クライアントがいて、期間や費用に制限されたものづくりではなく、自分の表現を作り上げると言う根っこの部分で、いいなと思う部分は大いにあります。」

――注目している、尊敬しているアートコレクターはいますか?

「自分自身、好きでアートを買っていると言う感じなので、コレクターとしてものすごく注目している人というのはいないかもしれません。ただ、日本にベンチャー企業というあり方が広がって、新しいコレクター層が生まれてくることで、日本のアートシーンが盛り上がってきているというのは感じています。アートを楽しむ文化が広まること自体は喜ばしいなと思っています。」

――お部屋を見ていると、伊万里焼や味のある豆皿など、生活工芸品も多く集められているのがわかりました。幼い頃からアートに触れたり、ご実家でもうつわなどの生活工芸品に触れてきたと教えてくださいましたが、アートや工芸品をかっこいいと思う感性は、守屋さんの身に染みついてきたものなんじゃないかなと思いました。これからアートをはじめる人で、例えばそういった接点が自分には無いと思っている人がアートを集めはじめたいと思った時、どんなことをしたら良いのでしょうか?

「自分もアート文脈の人間ではないので大きなことは言えないのですが、それでもアドバイスするとしたら、これかっこいいな! と思う雑誌などがあれば、まずそれを壁に飾ってみるところから始めたら良いのではないかと思います。自分も最初、そうだったので。額縁も、今はアンティークショップなどでも安く買えますし、まずは額に入れて飾ってみて、帰ってきてそれを目にした時に、ちょっと気持ちいいなとか、気分が高揚したりとか、そういう体験が、アートの世界に踏み出す最初のきっかけになるんじゃないかなと思っています。
そして、かっこいいもの、美しいものをたくさん見て、自分の中でその基準を作る。そのためには、美術館やギャラリーに行って多くの名品に触れること、そしてアートの文脈を勉強するというのが近道なのではと思います。もちろん、無理にする必要はないと思いますよ。」

伊万里焼などの陶磁器も
硫黄、鉛、蜜蝋、ガラスといった多様な素材を用いてロマンチックな作品を制作する、フランスを代表するアーティスト ジャン=ミシェル オトニエルのピン/ ©Jean-Michel Othoniel

 インタビュー:山本菜々子 テキスト:小澤茜

Profile

大学時代から大手広告代理店や制作会社でインターンを経験し、卒業後は映像プロダクションロボットで多くのナショナルクライアントの映像制作やアーティストのMusic Video制作を手がけながら、WEBやアプリの企画・制作・プロモーションまで幅広く担当。
2013年に株式会社Brutoを設立し、WEB・アプリ・映像制作を軸に人工知能開発など幅広い領域のプロデューサーとして活躍。
2016年にはアートとビジネスのより良い関係が築けるような新しい映像ビジネスを構築するため、株式会社NIONを設立。アートフィルム「KAMUY」をアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで発表するほか、渋谷スクランブル交差点街頭ビジョンでの世界的アーティストソフィ・カルのインスタレーション作品の放映や、江之浦測候所でのケルシー・ルーのライブ企画など、アートの力が最も発揮される場所と方法を的確に探し出し、ビジネスの流れに載せるプロデュースの仕事は新しい映像ビジネスの姿として大きな注目が集まっている。
そして2019年には、今までにはない新たな領域でのビジネス展開を目論み、株式会社Awwと、Persona株式会社を設立した。