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Interview

Gallery Tour With
Dear Art Vol.2
MA2 Gallery -
KYOTARO HAKAMATA

Aug 31, 2021

“アクリル板の積層で創る、新たな彫刻のかたち”
MA2 Gallery – 袴田京太朗さんインタビュー

「気になるアーティストの作品に込められた想いや意味が知りたい!」
「今おすすめのアーティストや作品はどれ?」

日本のアートシーンに興味をお持ちの皆様からのそんな声にお応えするべく、
シーンの最先端を知るギャラリーの皆様と共に企画し、今見るべきアーティストやおすすめの作品・おうちでの飾り方などをご紹介する「Gallery Tour With Dear Art」。

2回目となる今回は、MA2 Galleryさんのご協力で、「Window Gallery Project Vol.2」展を開催中の袴田京太朗さんのアトリエにおじゃましてインタビューさせていただきました。

他に例を見ないカラフルなアクリル板の積層を使った彫刻を発表し、国内外のコレクターさんから高い注目を集める袴田京太朗さんは、創作をはじめたときから一貫して彫刻と向き合い、いろいろな素材や手法を使いながら「彫刻とは何か?」を問い続けている日本人アーティストです。

なぜ、アクリル板なのか?なぜ、作品には顔がないのか?素朴な疑問を紐解いていくと、そこには袴田さんの彫刻に対する深い想いが込められていました。おうちやオフィスでの作品の楽しみ方なども語っていただきましたので、Dear Artでご紹介中の作品と併せてぜひお楽しみください。

Works on Dear Art

アクリル板を積層して制作された作品。そのほかの作品はこちら

左《新しい女児 1 New Girl 1》 2020, Colored acrylic, 49 x 15.5 x 10.5 cm, ¥330,000 (Tax in) / Kyotaro Hakamata 袴田京太朗
中《涅槃1 Multiplication – Nirvana 1》 2016, Colored acrylic , 72 x 24 x 19 cm, ¥440,000(Tax in)/ Kyotaro Hakamata 袴田京太朗
右《スプリット - 触る男2 Split – Touching Man 2》 2016, Colored acrylic , 60 x 49 x 7 cm, ¥660,000(Tax in)/ Kyotaro Hakamata 袴田京太朗

カラフルなアクリル板で
彫刻を作る理由

――袴田さんの作品は、一般的なブロンズの彫刻などとは素材もモチーフも大きく異なる印象がありますが、初めからこのような作品を作られていたのでしょうか?

袴田 今のようなカラフルなアクリル板を使った彫刻を作り始めたのは、15年前くらいです。それまでは特に素材を固定せずいろいろなものを使っていて、主にプラスチック系の素材を中心にタンスや座卓といった家具や電気のコードなど、身近なものも素材にしていました。
アクリル板にたどり着いたのはある意味偶然で、型にいろんな色の樹脂を層になるように流し込んでストライプになるように試したことがあったのですが、あまりうまくいかなくて、その代わりにアクリル板を貼り合わせて使うアイデアを思いついたのが始まりでした。
 彫刻の代表的な素材であるブロンズや大理石などは使われてきた歴史が長く、美術史的な文脈や権威性とどうしても結びついてしまいます。アクリル板は比較的新しい素材で、人工物ですし、あまり彫刻に使われる機会もなかったと思うので、そういったものから距離をとることができ、作品の内容に集中して鑑賞してもらいやすいと考えています。10年以上やってきてもまだまだ面白い素材で、最近やっといろんなことがわかってきた感じがします。

――実際にアクリル板の彫刻を作るときには、どのような手順で作るのでしょうか?

袴田 人型の彫刻の場合、最初に発泡スチロールで立体の原型を作って、それをスライスしてから、その形状にアクリル板を切ります。その板を積層にして、板のつなぎ目が滑らかになるよう彫ったり削ったりして仕上げていきます。

人型をモチーフにした作品。この後、グラインダー(電動ヤスリ)などで表面を滑らかに削っていきます。

 木彫りの熊や七福神の置物など、既存の立体物を複製するスタイルの作品の場合には、まず対象の置物などを何層かに輪切りにして、いくつかの個体に分割し、足りなくなった部分をアクリル板を使って埋めていきます。出来上がった作品は、元々の置物の複製でありながら不完全な状態になっているんです。ある意味で本物であり、同時にニセモノでもある、というような。複製作業の段階でどこかがエラーを起こしたような、バグったようなものを作ることも試しています。

複製をテーマにした作品。これから発泡スチロールの部分を彫り出して、アクリル板に置き換わる予定。

 アクリル板のカラフルな積層は、色のストライプに目が奪われてしまうため目で見ただけだと凹凸がわかりにくく、自分で彫っていても触ってみないとよくわからないことがあります。そのような「わからなさ」もアクリル板の積層を使う面白さの一つだと思います。

Works on Dear Art

複製をテーマにした作品。そのほかの作品はこちら

左《六面観音 - 複製 2 Six-headed Kannon - Replica 2》 2020, Wood,Colored acrylic,Paint, 87 x 21 x 19 cm, ¥605,000(Tax in) / Kyotaro Hakamata 袴田京太朗
右《六面観音 - 複製 1 Six-headed Kannon - Replica 1》 2020, Wood,Colored acrylic,Paint, 87 x 21 x 19 cm, ¥605,000(Tax in) / Kyotaro Hakamata 袴田京太朗

あえて顔を作らない、ということ

――袴田さんの作品は、壁にくっついていたり床に倒れていたり、一般的な彫刻とはあり方が異なる作品も多いですよね。顔を作らない、正面を見せない、というのも意識的にやっていることなのでしょうか?

袴田:彫刻は360度どこから見ても楽しめると思われがちですが、それはまやかしで、実は見る定番の位置……正面はあらかじめ決まっていることがほとんどです。美術館でも壁を背にしていたり、全部の角度から見られない展示をしていることも多いですよね。
 それを踏まえて、顔を作らないのは意図的にそうしている部分もあります。顔というのは情報が非常に多く、見る人にとって印象が強いので、そこに引っ張られて、彫刻自体のあり方に目がいかなくなることがあります。なので、通常ならあまり人の目に触れない、歴史的な文脈や意味が「弱い」、ネガティブな部分である後ろ姿をあえて見せていきたいという思いがあります。背中を向けていたり壁に宙吊りになったり、そういった彫刻としての「弱さ」を扱うことで、生々しさやリアリティに近付けたら、と思っています。

背を向けて壁に張り付く彫刻たち。袴田さんの手元にあるのは、発泡スチロールを切り出す際の型。

――彫刻のあり方そのものを強調するために、それぞれの要素と本当に細やかに向き合っていらっしゃるのですね。袴田さんは武蔵野美術大学造形学部彫刻学科のご出身ですが、こだわりはその頃からなのでしょうか?また、袴田さんにとって、彫刻とはどのようなものでしょうか?

袴田 私が美大生だった80年代は空間全体を作品とするインスタレーションが流行り出した頃で、歴史がある絵画や彫刻といったくくり方は古臭いイメージがありました。そのため若い作家たちは彫刻を「立体」と呼び、絵画のことも「平面」と呼んでいたんです。何か判断を保留している感じというか。そんな中でも自分は多少居心地が悪くてもどこかにきちんと着地した状態でないとまともなことができないような気がしていて、それで自分のことをあえて “彫刻家”と名乗っていました。
 ちょっと難しい言い方になってしまいますが、「ものがどうしてそこにあるのか」ということや、その存在の仕方、そして「ものがある/ないということについて」の疑問からスタートしているのが彫刻だと思っています。
たとえば基本的な彫刻を作る技術である粘土による塑像には「石膏取り」という作業があります。まず粘土で原型を作って、それを石膏型に取り、型から粘土原型を掻き出して、できた型に石膏を流し込み、最後に型を壊して作品を取り出すというものです。学生の頃、1ヶ月かけて作った粘土原型や石膏型を壊し、それらがゴミになったとき、なんだか不安な気持ちになりました。自分の作ったものが制作過程で捨てられていき、一体私の作品はどこにいっちゃうんだろう?作品って一体何を指すモノなのだろう?と思ったんです。それがきっかけとなって、彫刻というものの在り方について考え、それを作品で表していきたいと思うようになりました。

雑音の多いところに飾る楽しさ

――ところで、アトリエの中には袴田さんの作品はもちろん、世界中から集めた仏像やお面、作品のパーツなどいろんなものが飾られていますね。まるで秘密基地のようです。

袴田 意識的にごちゃ混ぜにして飾っています。自分で作った耳のパーツにチベット密教の数珠をかけたり、⾃分の作品と⾻董の彫刻やフィギュアを並べておいたり……10年くらい同じ場所にあるものも、すぐに入れ替えるものもあります。そうすることで、あるとき見えなかった良さに突然気づいたり、新たな魅力を発見することがあります。

様々な立体物や作品に囲まれた、秘密基地のようなアトリエ。中には、世界各地を旅する中で見つけた民芸品も。

――ご自身の作品でも、長時間飾っていることで新たな良さに気づくようなことはありましたか?

袴田 ありますよ。最近、自宅の壁に飾っていた自分の彫刻を、たまたま外してじゅうたんの上にゴロンと置いたことがあったんです。その時、今まで知らなかったその作品の別の良さが突然見えたような気がして、そのまま転がして飾っていたことがあります。

――Dear Artには、おうちやオフィス、お店に飾るアートを探している方が多くいらっしゃいます。彫刻を飾るのは、絵画など平面のものを飾るよりも少しハードルが高いのかなと思うのですが、作家である袴田さんから飾り方のアドバイスはありますか?

袴田 私自身、ホワイトキューブなどの空間に置くよりも、リビングなどの生活空間のような雑音のあるところにおいた方が面白いと思っています。私の作品は、いろんなものがある中に置いたときに見えてくる独特な違和感のようなものがあると思いますし、いろいろなものと混ぜて置くことで新たな魅力に気づくこともあるかもしれません。特に彫刻作品は置かれた空間含めて作品だと思うので。
 もちろん、飾り方に正解はありません。ぜひご自身のセンスで、「ここだ!」と思う場所を見つけて欲しいです。飾る高さを変えたり、複数体を並べたり、バランスを変えて置いてみたり。たとえ作者の制作意図から外れていたとしても、自分が所有しているものだからこそのチャレンジングな飾り方をしてみるのも楽しいと思います。
 私の作品をコレクションしてくださっている方で、自分の家を作るときにキッチンの流し台の脚として私の彫刻を依頼された方がいます。その方がいつもリュックを背負っているので、その姿をイメージして作りました。そんな風に生活空間にあるいろんなものと混ぜて置くのもいいですね。

《Missing》2005, 81 x 28 x 26 cm,アクリル板 個人蔵 / Kyotaro Hakamata 袴田京太朗

思い入れのある大作「ハルガ」

――なかなか選べないと思うのですが、ご自身で一番思い入れのある作品、お気に入りの作品はありますか?

袴田 そうですね。難しいですが、パッと思いつくのは府中市美術館の企画で初めて公開制作で作った「ハルガ」(2008-2009)という作品でしょうか。ハルガは、ガラス張りのアトリエでたくさんの人に見られながら制作しました。「どうせやるなら」とアクリル板の彫刻としては経験してない大きさの作品に取り組んだので、制作期間中に試行錯誤して得たこともたくさんありますし、観客に見られながら作るというのは特異な経験でもありました。ハルガは自分の好きな小説の主人公で、事故に遭って片足が義足の女性です。その欠損した足を逆さまにしたテーブルの脚とつなげて作品にしました。制作の大変さや思い入れも含めて、印象深い作品です。今は愛知県美術館のコレクションになっていて時々常設展示されているようです。

《ハルガ Hulga 》2008-2009, 197 x 145 x 105cm, アクリル板、木製テーブル/ Kyotaro Hakamata 袴田京太朗
愛知県美術館蔵 撮影:加藤 健

アートが更新されていくには、
きちんと批評してくれる人が必要

――今はアートバブルとも言えるような流れがありますが、Dear Artが目指している「アートとともにある生活」が日常になるためには、どんなことが必要だと思いますか?

袴田 バブルと言われているということは、長くは続かないものだと思われているということですよね。長く続くためには、当然ですが質の高いものがしっかり評価されて、買ってもらえることがまず大事だと思います。
 さらに、現在は多様性を認めるということでアートでも「みんな違ってみんないい」というような風潮がありますが、「いいものはいい、悪いものは悪い」ときちんと言えるようになること、単なる批判ではなく、きちんと分析した批評ができる人たちを育てるのも大事なことだと思います。アートがただ消費されていくのではなく、更新して新しいものを生み出していけるようになると、より面白くなっていくのではないでしょうか。作品を観たり買ったりするみなさんも、作品の「好き/嫌い」をきっかけにして、その「良し/悪し」についても広く考えていただけるようになると嬉しいですね。

コロナ禍で感じた、
アートの弱さと可能性

――コロナ禍の中、MA2 Galleryで窓の外から鑑賞する「Window Gallery Project」を開催したりと活動を続けていた袴田さんですが、アーティストとしてコロナ禍で感じた思いなどはありますか?

袴田 アートってこんなに社会の中で弱いんだなと思いましたし、ショックでした。
コロナ禍で真っ先に美術館・博物館は休館となりました。当時、東京都現代美術館ではオラファー・エリアソン展、東京国立近代美術館ではピーター・ドイグ展、東京国立博物館では百済観音の特別展など都内の美術館には、すごい作品ががたくさん展示されていたのに、誰に観られることもなくただそこに佇んでいるという状況になっていました。すごく勿体無いと思う反面、アートを見ないでそれを想像するという新しい贅沢な楽しみのようにも思いました。
 現在は、ファッションや食べ物と同じように、“ファスト・アート”とつけたくなるような、過剰なほどの情報を詰め込んだ、見てすぐにわかるようなアートも多く見受けられます。ただ、それに対して最初はよくわからなくても、時間をかけてゆっくりじわじわ感じたり、理解したりする“スロー・アート”のような存在に、私はアートの可能性を感じています。そしてアーティストとして、そのようなことに関われたら嬉しいなと考えています。

インタビュー/テキスト:山下千香子、小澤茜

Artist Profile

袴田京太朗(Kyotaro Hakamata)彫刻家・武蔵野美術大学教授。
1963年 静岡県生まれ。1987年 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。1994年 文化庁芸術家在外研修員として渡米。1996年五島記念文化賞美術新人賞受賞による海外研修としてチベット、中国、ネパール他に滞在。2012年 d第22回タカシマヤ美術賞受賞。
主な展覧会として、2007 ‘08‘10年「椿会展」資生堂ギャラリー、2011年「袴田京太朗展 人と煙と消えるかたち」静岡市美術館、2012年「袴田京太朗展 扮する人」MA2ギャラリー、「色めく彫刻」群馬県立館林美術館、2013年「ミニマル/ポストミニマル」宇都宮美術館、「物質と彫刻」東京藝術大学大学美術館陳列館、2014年「袴田京太朗展 人と煙、その他」平塚市美術館、2015 年「線の美学」愛知県美術館、2016年「つらなるかたち」清津倉庫美術館、2019年「循環しないレモンイエロー 袴田京太朗」カスヤの森現代美術館、2021年「DOMANI・明日展2021 スペースが生まれる」国立新美術館(東京)などに出品。
主な収蔵先 愛知県美術館、宇都宮美術館、川崎市民ミュージアム、佐久近代美術館、資生堂アートハウス、横浜美術館、ファーレ立川、他。

Gallery Profile

MA2 Galleryは2006年、恵比寿にオープンした現代美術のコマーシャルギャラリーです。
カテゴリーにはこだわらず、独自性を追求しながらも現代の社会と深く関わる良質で洗練された国内外の現代アート作品をご紹介しています。
取扱作家のみだけではなく、様々なボーダーを超えたテーマ性のある企画展よりアートを身近に感じて頂くための展示、国内外のアートフェアへの参加、コミッションワークの受注、インテリアへの作品のご提案なども手掛けています。
千葉学の設計による外光の入る展示空間も特徴です。