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Interview

Life With Art
Vol.02
Fumio Takashima

September 25, 2020

「アートのある日々」Dear Artが掲げるこの言葉を当たり前のものとして生きる各界の第一線で活躍する人々に、コレクションや生活を覗かせていただきながらお話を伺う本シリーズ。
第2弾となる今回は、誕生から28年たった今も幅広い年齢層の女性たちから絶大な支持を集め続けているインテリア・雑貨ブランドFrancfrancの生みの親、株式会社Francfranc代表取締役社長の髙島郁夫さんです。

類いまれな洞察力と洗練されたセンスで人の本質的な欲求を見つけ出し、モノだけでなくライフスタイルとともに提案する髙島さんは、BALS TOKYO、AGITO、J-PERIOD、La Boutique DE LA MAISON、WTWなど多様なブランドを国内外で展開してきました。
世界的なトレンドを見極め、次のアイデアを出し続けるために意識しているのは、常に最前線で遊びながら人の行動を見ること、そしてあらゆるショップや雑誌、そしてアートと触れ合い、感性を更新していくことだと言う髙島さんですが、私生活では長らく広げてきた知見をベースに自分が今最も必要に思う物事だけを残してミニマライズを進めていっていると話してくださいました。

今回は、緑あふれる閑静な住宅街に建つご自宅にお伺いし、たくさんのアートが飾られたお部屋を拝見しながら、アートを生活に取り入れるためのアイデアや、理想のコレクション、そして美しい空間の作り方まで幅広くお話しいただきました。

田園調布の一角に佇むご自宅は、世界的な建築家・隈研吾の設計
外壁から階段までぬかりなく美しいその佇まいに圧倒されながら玄関を開けると、早速双子のアーティスト マイク・アンド・ダグ・スターンによる植物の写真のコラージュ作品が出迎えてくれました。
庭先の緑が、風で運ばれてきたような景色です
/ MIKE AND DOUG STARN
和室には日本を代表する白磁陶芸家 黒田泰三の作品や、
繊細なタッチで抽象化された風景画を特徴とするアメリカのアーティスト グラハム・パークスの絵画が飾られ、凛とした空気が漂っていました / 黒田泰三、Graham Parks
吹き抜けのリビングには、背の高い壁を活かしたタペストリーをはじめ、たくさんのアートやこだわりのインテリアが美しく配置されていました

上質な空間を作るために、アートはなくてはならないもの

――ほとんどのお部屋に、それぞれの空間に合わせたアートが飾られていて、まるで美術館を訪れたかのような気分です。これだけの作品を集められるまで、一体どんな経緯があったのでしょうか? 早速ですが、初めて購入された作品について教えてください。

「初めて購入したのは、久野真(※1)のこの作品だね。もう30年前になるかな。まだアートについて全然詳しくなかった頃だけど、東京画廊(※2)の創業者の山本さんに紹介してもらった作品で、高松次郎(※3)の作品とかと併せて見せてもらって、一枚買ったの」 (※1 1921年、愛知県名古屋市生まれ。1950年代、石膏による抽象絵画で注目を集めて以降、鉄や鉛・ステンレスなどの金属を用いた絵画を制作し、アンフォルメルの運動とも連動しながら世界的に活躍した)
(※2 1950年、銀座にオープンした日本最初の現代美術画廊。ルチオ・フォンタナ、イヴ・クライン、ジャクソン・ポロックなど、欧米の現代美術作家を国内でいち早く紹介。また、高松次郎、白髪一雄、岡本太郎などその後日本のアートシーンを牽引してゆく作家も多数取り上げた。韓国や中国などアジアの現代美術も積極的に発信している)
(※3 1936年、東京生まれ。戦後の日本美術界を切り開いた芸術家の一人。1960年代前半、赤瀬川原平、中西夏之と共にユニット「ハイレッド・センター」を結成し、街中で「反芸術」的なパフォーマンスを繰り広げた。個人の作品では、誰もいない壁に朧げに浮かび上がる人影を描いた「影」シリーズなどが有名 )

久野真の抽象的な絵画作品
《鋼鉄による作品 #315》1976, ステンレススチールパネル, size : 53 × 33 × 5.5cm / 久野真

――お知り合いからの紹介であったとしても、そこでアートを買うか買わないか、というのは人によって別れる部分だと思うのですが、髙島さんはなぜアートを買う選択をしたのでしょうか?

「すでにインテリアの商売をやっていたこともあって、その当時の店舗の空間に合うものが欲しいというのがまずあった。ドイツの重たい感じの家具を扱っていたので、そこにこの作品があったら空間にも作品にも良いんじゃないかと思って、買うことを選んだね。
最初から、作品単体ではなく空間を完成させるためのアート、という視点でアートを見ていたかな。たとえば自分の部屋を新しく持って、家具を揃えた時に、壁が空いているとする。そこにしっくりくるアートがあって初めて、空間が完成するというイメージがあって」

――そうして、このご自宅のような、それぞれの空間とともに存在するアートのコレクションが出来上がってきたんですね。どういうことから始めたら、こんな風にアートと暮らす空間ができるのでしょうか?

「自分の好きな家ないし部屋を作った時に、どこかが空いている。じゃあ何を置くか?という時に、まずは選択肢としてアートを入れておくのが最初かな。そこにどんなものがあったらいいか、考えた結果にアートがあるという流れが自然で良いんじゃない」

――確かに、インテリアとアートというのは、切っても切り離せない関係性を持っていますね。もちろん、作品自体に惹かれる要素があるという前提の中で、買ったからには、手元に置いて楽しみたいもの。
とても広い空間があるのにアートが一点もなかったり、あってもなぜか空間から浮いてしまったり、どうしてもうまく取り入れられないというお悩みもたまにお伺いするのですが、どうしたら良いのでしょうか?

「素晴らしいアートを手に入れて、飾ってみたけれど、何だかバランスが悪いという状況はよく見るよね。高名な建築家に家を建ててもらったけど、漆喰の壁にそのポスターを貼るのか、というようなこともままあるし……。やっぱり大事なのは、作品自体の力ももちろんだけど、手元において楽しむ以上、飾ったときの見え方という観点を持つこと。これは、はっきりと持ち主のセンス、バランス感覚が出る部分だと思う。
例えば、俺は草間弥生だったら花の作品がいいなと思っていて、床の間に花を飾る代わりにあの絵があったら、おお、と思える。だけど、南瓜の作品とかはそれ自体の存在感がかなり強くて、どうしたらいいかわからない。作品自体はいいね、と言われるかもしれないけど。どこにどう飾って、どんな空間を作っているかという部分に持ち主の本質が現れるものだと思うから、そこに繋がらない限りは、どんなにすごい作品だったとしても選ばない」

ソファには愛犬のすずちゃん。佇まいが優雅です

――センスやバランス感覚はどうやって身につければいいのでしょうか?

「より多くの優れたものを見ること、それぞれの歴史や成り立ちを知ること、そして何より自分で考えること、これ以外にはないかなと思う。
私の中には、”世界で最高のインテリアショップ”のイメージが既に頭の中にあって。例えばそこで扱うソファだと、すでに名品と呼ばれるデザインが多数存在する。Cassina-ixc.のMARALUNGA(※5)、北欧でいえばFRITZ HANSENのEGG CHAIR(※6)など。何故なら今後もそれを超すものはなかなか出てこないと思うと、形はそれでいいと思う。その代わり、生地はちゃんとオートクチュールを張りたい。棚はモダンなものでなく、ヴィンテージのものがあるとバランスがいいと思う。歴史を経て認められてきた名品と、オートクチュールとヴィンテージ。そうなってくると、必然的にそこに飾られるアートも本物でないと、耐えられない。そこにレプリカがあってはならない。それはつまり、付加価値のバランスが同一なものでないと、同じ空間にいられないということ。これは私の価値観だけど、そんな風に自信を持って判断できるだけの蓄積された感覚を持つということ。
それは、自分でいろんなものを見て体験して、頭の中でああでもない、こうでもないと編集して、実際にアウトプットして、磨いていくことでしか得られない感覚だと思う。
作品ありきで買うのではなく、自分はどんなテイストが好きで、どんな空間が作りたいのかから考えるのが大事。なんだか難しく聞こえるかもしれないけれど、簡単に言えば、写実がいい、クールな雰囲気がいい、今はストリートな気分、とかね。アートをアートそのものだけで判断するのではなくて、自分の感性を理解したうえで判断するといいんじゃないかな」 (※5  1973年、ヴィコ・マジストレッティによってデザインされたソファ。当時木枠が当たり前だったソファの内部構造にモールドウレタンを初めて本格採用し、様々な環境に調和するデザインと優れた座り心地を実現した。ソファの常識を打ち破った革新的な作品とされる)
(※6  1958年、デンマーク コペンハーゲンのSASロイヤルホテルのために、アルネ・ヤコブセンによってデザインされたチェア。 体をすっぽりと包むような卵のような形状が特徴的)

家そのもの、インテリア、そしてアート。
全てが文化的な要素を持った、洗練された空間を目指して

――たしかに、アートを集めていてどこかかっこいいなと思う人たちは、アートのことはもちろん、ファッションやインテリア、ワインやお花など、それぞれ様々なものに興味と教養を持っていて、理想に向かって自分の感性を形作っている印象があります。髙島さんの理想の空間についてお聞かせいただけますか?

「実はこの家は、今現在の自分は気に入っていないんだよね。40歳過ぎくらいに作った家だけど、人生のステージが移行してきているから、それにあわせて家のあり方も、そこにあるべきアートも、変わるべきだと思っている。
この家を作った時は、上昇志向が強くて、インテリアやアートにもそれが現れている。ツヤのある黒テーブルとかね。でも今は、それが重くて。今、終の住処を作るべく、もうすぐ引っ越しをする予定。そこはあまり色で存在感を出したくないと思っている。家具はグレイッシュな雰囲気、グレーやベージュで、より柔らかく洗練された印象になると思う。重くないけど軽すぎない、さらっとしていて調和する感じかな。
パッと見てわかる派手さはないけれど、色々な要素が削ぎ落とされていてもなおわかるような。ひとつひとつが文化的な要素をもった、洗練された空間にしたい。
あとは奥さんとのバランスも大事だね。マスターベッドルームがあって、その両脇に書斎とパウダールームがそれぞれあって……共有する場と、個人の場を設けたい。今はそういったプライベートな空間の間取りと、人が来るリビングあたりの間取りをどう接続させるかを中心に、空間づくりを考えているね」

――なるほど。とても勉強になるお話です。例えば旅先で新しく出来たカジュアルなブティックホテルに泊まってみた時など、パーティーのために持って行った13センチのハイヒールが靴置きに入らなかったり、フルレングスのドレスがクローゼットにストンとかからなかったり……。これは提案するステイスタイルの違いだとは思いますが、このこと一つとっても、本当に自分に合った居心地が良くてかっこいい空間を作るには、様々なことに興味を持って自分が豊かに生きて考えないといけないなと思います。その人のライフスタイルにあわせて、ひとつひとつじっくり考えることが大事ですね。

――飾られている以外にも、本当にたくさんの作品を所蔵していらっしゃる髙島さんですが、なぜここまで、アートを集めていらっしゃるのでしょうか?

「実は家の地下にサーフボードが10枚、スケボーが何台、とあるんだけど、それと同じように、買い始めたらいつの間にか集まっちゃったんだよね(笑)。でもサーフボードもスケボーも、これとこれの3枚があればいいかな、とだんだん絞れてくる。アートも、最終的には気に入ったものが10枚あれば良いというくらい、絞り切っていきたいと思うけどね」

――その10枚に確実にランクインするものはなんですか?

「うーん、自分の持っているものの中なら、ウィリアム・クライン(※7)かな。今日見てもらったアレックス・ブラウン(※8)もアメリカっぽくていいなあと思っている。作りもきれいで、完成度が高い。Francfrancのオフィスに飾っている、アレックス・カッツ(※9)の3組の絵も好きだね」 (※7  1928年、ニューヨーク生まれ。ファッション写真の撮影からキャリアをスタートさせ、ブレやボケといった大胆な表現を取り入れた力強い表現は当時の写真の常識を覆し、その作風は今なお多くの写真家に影響を与え続けている。)
(※8  1966年生まれ。写真やポストカードの画像をベースに、パターン化された抽象的なグリッドで人物や風景を描くアメリカのアーティスト。フォトリアリズムとオプティカルアートを融合した手法が注目を集めている。)
(※9  1927年、ニューヨークのブルックリン生まれ。家族や友人をモデルとし、洗練されたシンプルなアウトラインと鮮やかな色彩で平面的なポートレイトを制作する。ポップかつリアリスティックな独自の表現で、アメリカを代表するアーティストの一人。)

左:《Nina & Simone, Piazza di Spagna, Roma...,1960》
中央:《Nina & Simone, Piazza di Spagna, Roma..., 1961》
右:《Nina & Simone, Piazza di Spagna, Roma..., 1962》
1960, Photograph, Image size : 34 x 33cm / William Klein
《Melody Life 2006》 Oil paint on Canvas, Image size : 148.6 x 169.7 cm / Alex Brown
左:《Chance sets,Anne,Vivian,Darinka》 - Anne
中央: 《Chance sets,Anne,Vivian,Darinka》 - Vivian
右: 《Chance sets,Anne,Vivian,Darinka》 - Darinka
2016, Silk Screen, Image size : 177.8 x 116.84cm / Alex Katz

――アレックス・カッツは、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(※10)で購入なさった作品ですよね。かなり大きな作品(177.8x116.84cm)ですし、買われた時は、どんなお気持ちでしたか?
(※10 毎年スイスで開催される世界最大の近現代美術のアートフェア「アートバーゼル」の姉妹イベントで、アメリカ大陸最大の規模を誇るアートフェア。毎年末、避寒地マイアミ・ビーチで開催される。)

「あの作品を見つけた時は、おお!と思ったし、良いものを手元に迎えることができて、すごく楽しかったね。合わせて買うからちょっとまけてよ、なんて言ったりして(笑)」

――アートフェアには、いつ頃から通われているのですか?

「10数年前に行ったのが初めてだったかな。マイアミにフランチャイズしてすぐ。思い返すと、あの時買っておけばよかったなんてものもあるよね。
あとはこの家を買った時は、岩崎さん(※11)に薦められて色々買ったなあ。(笑)そんなふうに直接紹介されてアートと触れることも多かったね。ギャラリーに行くのも良いけれど、俯瞰的にアートシーンを見て、“コンテンポラリーアートってこういうものなのか”という大きな流れを感じるには、ギャラリーにいくだけでは足りないかもと思う。
岩崎さんみたいに、全体を編集して見せてくれるようなところがないと、わかりづらいかもしれない。そこにはビジネスもあったから、100%鵜呑みにはできないけど、そこはこちらも知識やセンスを磨きながらやりとりしていたね」
(※11 1976年に発足したDCブランド PERSON'Sの創始者、岩崎隆弥氏。2001年、六本木に現代アートギャラリーのGALLERY MIN MINを開廊(2008年に代官山に移転したのち、現在は閉廊)。国内外の若手アーティストを積極的に紹介し、当時大きな存在感を放っていた。)

――今のアートフェアも、きっと10年後に「あの時買っておけば!」というものがあると思うと、ワクワクしますね。髙島さんが今、注目しているアーティストは誰ですか?

「さっきも言ったように、自分の暮らしをミニマイズして、人生も第三コーナーという感じだから、数は少なく、価値は高くという風にしていきたい時期。先ほどあげたアートも好きだけれど、最後に見て死ぬなら、デイヴィッド・ホックニー(※12)の作品が良いかも(笑)幸せオーラがあるから」
(※12  1937年、イギリス生まれ。ロンドンのゴールドスミス・カレッジで絵画を学び、華やかな色調とフラットな描写で若くして注目を集めた。プールサイドシリーズや、鮮やかに描かれた室内の絵などが有名。 1960年代のポップアート運動にも参加し大きな影響を与えた。20世紀のイギリスを代表するアーティストの1人。 )

――投資でアートを買うこともあるのですか?

「もちろんあるよ。でも、アンディ・ウォーホルとか、これ買ったら間違いない!って元本保証で買うだけというのは、つまらないよね。上がるかわからなくても、将来有望とか、好きだから買うというのがやっぱり一番根底にあるね。まあそこはバランスだと思う。ポートフォリオを作る時の感覚と似ているかな」

――最後に、髙島さんにとってアートとは?

「アートはもちろん、アート単体で価値や存在感があるものだけど、手元で楽しむことを考えると、全体との調和をベースに考えるもの。と、私は思ってる」

――今日はとっても楽しくて刺激的なお話を有難うございました。
また、お引越しされたらいつか取材させてくださいね。

 インタビュー:山本菜々子 テキスト:小澤茜

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Profile

1956年、福井県生まれ。79年、関西大学経済学部卒業後、マルイチセーリング株式会社に入社。90年、福井県今立郡今立町に輸入家具、輸入インテリア用品の販売会社、株式会社バルスを設立。92年、東京・天王洲アイルに「Francfranc」1号店をオープンし、東京へ本社を移転。2002年、ジャスダック市場に株式を上場、BALS HONG KONG LIMITED を設立。05年、東証二部に株式を上場。06年、東証一部に株式を指定替え。10年に中国、11年にシンガポールに法人設立。12年、MBOにより非上場。「Francfranc」「BALS TOKYO」「AGITO」「J-PERIOD」「La Boutique DE LA MAISON」「WTW」を国内外で展開。インテリアという枠組みにとどまらず、ライフスタイルそのものを世界へ向けて提案している。